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Act Ⅲ Scene 4 : ambush ⑥
木造の壁板は腐っているし、塗装は雨風で剥がれ落ちている。なにより、屋根の上に立て掛けられている十字架は斜めに傾き、今にも落ちてきそうだ。おそらくはずっと以前に造られたものだろう。
中は闇だ。外壁同様、腐敗してしまったのか礼拝堂の入口にドアは無い。楕円状にぱっくりと開いている様はまるで虚無の中に誘っているようにも見える。
そこでようやくクリフォードの足が止まった。礼拝堂の全貌を見回す。カルヴィンは慌てて近くにある木陰に隠れた。ほんの一瞬、クリフォードと視線が合ったような気がしたのは気のせいだろうか。カルヴィンが木陰から顔を出せば、そこには彼の姿はない。おそらく礼拝堂の中に入ったのだろう。カルヴィンは恐る恐る入口を覗き込む。――そこにいたのは、やはりゴドフリー公爵だった。
ゴドフリー公爵は闇を纏うクリフォードとは対照的に白を纏っている。それが恐怖さえ感じるのはなぜだろう。
「やあ、ウォルター伯爵。待っていたよ」
聞き覚えのある低い声が礼拝堂に響き渡る。
「よくもぬけぬけと……」
クリフォードは歯を噛み締め、呻るような声を出した。
「わたしは酷く腹を立てているのだよ。せっかくの食料を横取りしやがって! 九年前の死に損ないが!」
クリフォードがよほど憎いのか。ゴドフリー公爵は地響きにも似た低音でそう言った。
九年後とは、シャーリーンの命日だ。
ではやはりクリフォードがシャーリーンの第一発見者なのだろうか。
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