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Act Ⅲ Scene 4 : ambush ⑫
彼が負った傷はあまりにも深かった。それに気が付いたのはカルヴィンの手が濡れているように思えたからだ。見下ろせば、両の手には鮮血がべっとりと付着している。
もちろん、カルヴィンは怪我なんてしていない。だからクリフォードを支えた時に付いたものだとわかった。
この戦いは明らかにクリフォードが不利だ。
ゴドフリーは仮にも、"窮地に立たされた王を助けた"として名を馳せている騎士である。そんな騎士を相手に大怪我を負いながら戦って勝てる相手ではない。
「無茶だ! その傷じゃ、死んでしまう!」
「そうそう、カルヴィンがわたしの食料になる様を大人しく見ていると良い」
「おれなら大丈夫だ。カルヴィン、逃げろ。今なら奴はまだ君に近づけない」
クリフォードはゴドフリーを見据えたまま口を開いた。
まだ。
クリフォードの言葉に取っ掛かりを覚えたカルヴィンは眉を潜めた。
「それは……どういうこと?」
「君の右の首筋にふたつの傷があるだろう? そのおかげで余所者たち、つまり特異種 は手出しができないんだよ。そいつが付けた吸血痕のおかげでな!」
カルヴィンの問いに答えたのはクリフォードではなくゴドフリーだった。彼はクリフォードを憎々しげに見下ろし、そう吐き捨てた。
「吸血痕……」
ゴドフリーの言葉を合図にして、カルヴィンはほぼ反射的に右の首筋に触れた。
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