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Act Ⅲ Scene 4 : ambush ⑯
「クリフォード……」
姿こそまだ見えないが、クリフォードの名を呼ぶ男性の声は次第に大きくなっている。
ゴドフリーが去った今、静寂が辺り一帯を包む。クリフォードの苦しそうな声が漏れていた。たとえヴァンパイアであっても毒には勝てないのか。薄い唇からは荒々しい浅い呼吸が繰り返されている。
「――なぜ、来た」
「真実を知りたくて……ああ。これ以上何も話さないで。毒が回ってしまう!」
カルヴィンは着ていたチュニックを引き裂くとこれ以上彼の躰から血液が出ないようクリフォードの傷口を縛った。
悪魔から受けた傷は自分が思っている以上にずっと深い。白だったはずのチュニックは瞬く間に赤へ染まっていく。
カルヴィンは唇を噛みしめた。
――このまま……。
自分は何もできないままクリフォードが死に逝く様を眺めることしかできないのか。
クリフォードの傷は素人のカルヴィンが見ても致命傷だとわかる。それでも彼は悪魔から毒を浴び、考えられないほどの激痛を伴っているだろうに悲鳴さえも上げないこの男の精神はおそろしく強い。
「ごめ、なさい……」
噛みしめた唇からぽつりと漏れる謝罪の言葉を合図に、カルヴィンの目から涙が溢れ出す。
カルヴィンは激しい罪悪感に見舞われた。
「本当はゴドフリーだったのに……。貴方がどんな思いでいるのかも考えず、世間での噂ばかり鵜呑みにして……貴方を疑ってしまって、ごめ、なさい……」
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