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Act Ⅲ Scene 5 : 血に飢えた悪魔。 ①

 カルヴィンが狼狽している中でも、ティム・コナ―の仕事は手慣れたものだった。  過去にもクリフォードがこういった命に関わる危機的状況に直面したことがあるのだろう。自らが馭者(ぎょしゃ)を務める馬車に、ぐったりしているクリフォードを乗せて走らせること数十分。彼は人気のない山奥にまるで身を隠すかのようにひっそりと佇む屋敷の前に停めた。  カルヴィンと共同でクリフォードを室内に運び込む。ティムがランプと暖炉に火を灯す。すると室内の全貌がはっきり見渡すことができた。全体が一室しかない室内は、けれども大人二人で住むには事足りる広さだった。暖炉も調理器具も完全閉鎖式のレンジだって完備されているし、何より壁紙や敷物もあたたかみのある色鮮やかな色彩を基調としている。こまめに掃除されているのだろう室内は、目立った埃が見当たらない。それとは相俟って人の気配はまるで感じられなかった。 「ここ、は?」 「この場所はこういう時のためにクリフォードが手に入れた別荘だ。ここなら人気はないし、誰にも知られる心配はない。あのまま屋敷に戻ってはゴドフリーの思うつぼだ。奴はクリフォードの屋敷を知っているだろうし、しかもこの傷で一時間も馬車を走らせるには時間が足りないからね。幸いにもゴドフリーに呼び出された場所からここが近くて助かったよ」  カルヴィンが訊ねると、ティムは口の端を上げて笑みを作り、静かに答えた。  カルヴィンはティムを手伝い、キングサイズのベッドに傷ついたクリフォードを横に寝かせた。コートと靴を脱がせ、呼吸がしやすいよう、薄手のチュニックとズボンだけにしてやる。

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