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Act Ⅲ Scene 5 : 血に飢えた悪魔。 ②
こうして明るい場所で彼を見下ろせば、カルヴィンが思っていたよりもずっと傷口は深かった。傷口が広がらないようにとしっかり巻いたチュニックの切れ端は既に真っ赤に染まり、腕から滴り落ちている。そんな状況下で、何を思い立ったのか、ティムはどこで手に入れたのか、突然頑丈な鎖を持ち出したかと思えばクリフォードの躰を縛り上げ、雁字搦めにしたではないか。
「さて、これでよし」
カルヴィンは目を疑った。
「ティム、なにをしているの!?」
ただでさえ重傷患者を、鎖で縛っては身動きができない。カルヴィンは慌ててティムを制する。
しかしティムは顔色ひとつ変えず、まるで壊れた人形を前にしているかのように淡々と話しはじめる。
「ここから民家までは大分距離はあるが、万が一ということもあるだろう? 鎖のこれは自我を失ったクリフォードが暴れ出し、人を襲わないようにするためさ」
「それは、どういうこと?」
「クリフォードは血を流しすぎている」
「だからじゃないか!」
カルヴィンはヒステリックになった。
こうしている今だって刻一刻を争う。クリフォードから血が消え失せ、しかも悪魔から受けた毒が体内を駆け回っている。脈が止まり、心臓が停止するのも時間の問題だ。
「君はもう知っているんだろう? クリフォードがヴァンパイアだって」
「……大体は……でも、このままじゃクリフォードは! ただでさえ出歩けない躰なのに鎖で縛るなんて酷い!!」
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