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Act Ⅲ Scene 5 : 血に飢えた悪魔。 ③
「大丈夫、心配ないよ」
癇癪を起こすカルヴィンを、ティムは大丈夫だと話す。
しかしこれのどこが大丈夫だと言えるのだろう。繰り返す呼吸はまるで虫の息のように小さく、クリフォードの顔色は明らかに青ざめ、玉のような汗が浮かび上がっている。
カルヴィンは涙を浮かべ、愚かな真似はやめろとティムに縋りつく。
「大丈夫。カルヴィン、大丈夫なんだ。少し血を飲んで安静にしておけばすぐによくなる。大きな血液パックも充分に用意した。十人分の血液が入っている。これで事足りるよ」
我を失い泣き縋るカルヴィンを宥めながら、ティムは用意してあった点滴台に大きな血液パックを取り付け、管の先にある針をクリフォードの左腕に固定した。
「カルヴィン、クリフォードはヴァンパイアになってからこれまで、人を襲ったことなんて一度もない。古くなった献血用の血液を病院から盗み、あるいは政府から調達して飲んでいたんだ」
すすり泣くカルヴィンはティムに頭を撫でられ、落ち着きをほんの少し平常心を取り戻した。涙で潤んだ視界のまま、苦しそうなクリフォードの顔を見つめる。
「しかしどんなに人の血を拒み続けたとしても化け物には変わりない。致命傷を負ったクリフォードに理性の欠片もないだろう。今の彼は血に飢えた化け物だ。もし、このまま血を求め、民家を襲えばどうなる? 人々はクリフォードを悪魔として認識されてしまうばかりか、公爵でもあり王が信頼を寄せているゴドフリーはクリフォードを討つだろう」
自分が口にした光景を想像したのか、ティムの眉間に深い皺が寄る。大きく頭を振った。
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