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Act Ⅲ Scene 5 : 血に飢えた悪魔。 ⑤
長い説得に耳を傾けることはなく、カルヴィンは首を振り続ける。そんなカルヴィンにようやく折れたティムは大きなため息を漏らした。
「……わかった。君はここに残ると良い。だが、いいかい? けっしてこの鎖を解かないでくれ。君の命に関わることだからね」
「はい」
カルヴィンが頷いたのを見届けるとティムは立ち上がった。
やがてドアが閉まり、馬の蹄の音が遠ざかるのを聞きながら、カルヴィンは静かに息を飲む。
パチパチと炎が弾ける音がする。激しい痛みと焼けるような毒の熱に犯されているのだろうクリフォードが歯を食いしばり、呻っている。
「クリフォード……どうか生きて……」
脂汗でべっとりと張り付いた前髪を後ろに撫でてやる。
疲労した弱々しい彼は本当にあの強情で凛々しいクリフォード・ウォルターだろうか。
カルヴィンは目に溜まっている涙を乱暴に腕で拭い、おそらくティムが容易してくれていたのだろう水を水差しで洗面器に入れると濡らしたタオルでクリフォードの汗を拭き取っていく……。
チュニックを引き裂き、タオルに汗を吸い取らせる。
そうやって目に入るのは躰に巻き付く鎖だった。ティムには嫌というほど念を押され、鎖を外さないようにと言われたが、それでも苦しそうにしているクリフォードを黙って見ていられるほど冷酷な人間ではいられなかった。
クリフォードの呻る姿が見ていられない。カルヴィンはとうとうティムとの約束を破り、鎖を外しにかかる。
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