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Act Ⅲ Scene 6 : 美しいひと。 ①

 カルヴィンは目を覚ました。  あれからどれくらいの時間が経っただろう。人の目を隠れるために建てられた鬱蒼(うっそう)と生い茂ったこの樹林の中にある屋敷では窓から日が入り込まず、今の時間帯がよくわからない。  暖炉の炎はここへ来た当初よりも若干弱まっているものの、しかしこの部屋を照らすには充分な明るさだった。  目の前では美しい男性がまさに死んだように眠っている。  傷を負った当初にはなかった薄い唇の色も健康的な色に戻り、青白かった顔色も元の象牙色になっている。けっして細身ではない、ほどよい肉付きのある筋肉質な躰は鋼のように美しい。彼の肩口には出血はもうどこにも見当たらない。あれほど深かった傷口は今や塞がりかけている。悪魔の攻撃からカルヴィンを庇った傷は殆ど癒えていた。  通常の人間ならまず助からないほどの出血が止まり、毒さえもものともしない。やはり彼は常人ではないのだとカルヴィンはあらためて理解した。  助けに駆けつけてくれたティムと別れ、あれからどのくらいが経っただろう。  自分の首筋に指をやれば、クリフォードが付けた真新しい噛み痕がくっきり残っている。  それはカルヴィンが意識を失う直前のことだ。  自我を失ったクリフォードが危険だとティムには散々念を押されたにもかかわらず、鎖を解いた。そしてクリフォードに襲われた。  けれども自分は今、手足を動かすことができている。どうやら殺されずに済んだらしい。

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