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Act Ⅲ Scene 5 : 血に飢えた悪魔。 ⑩

 もしかするとゴドフリーに血液を抜き取られたシャーリーンもこんな感覚になっていたのだろうか。  死の狭間で快楽をおぼえたのかもしれない。  触れられた箇所に熱が集中する。  クリフォードに弄られた胸の飾りはツンと尖ってそこにあることを強調しているし、足の間にある欲望はさらなる快楽を求め、雫を垂らしながら震えている。  理性を失ったヴァンパイアに躰を暴かれ、淫らに喘ぐ自分はなんと愚かなのだろう。 (姉さん……)  視界が揺らぎ、涙がはらりと零れ落ちる。  この涙は失った姉を想う悲しみのものなのか。未だかつて経験したことのない快楽によるものなのか。それとも死よりも快楽に溺れる自分が卑しいと卑下した涙なのか……もう、何もわからない。  ベッドの上で浮き沈みを繰り返す躰は果てたいのに果てることを許されない。すすり泣く声はさらに大きくなっていく。  カルヴィンの両腕が伸びる。クリフォードの後頭部を抱きしめた瞬間だった。  クリフォードはいっそう呻るような声を放った。  それはまるで、何かに逆らうかのような決意を持った呻り声だと思った。  カルヴィンはもう一度、半ば本能的にクリフォードの名を呼ぶ。するとどうしたのか、あんなに食らいついていた彼の牙がカルヴィンの首筋から離れた。  ぱちぱちと薪を燃やす軽快な音が響く。  そんな中、カルヴィンはクリフォードに呼ばれた気がした。はっとして目を開けば、クリフォードと視線が重なった気がした。その目はいつもの、カルヴィンを魅了して止まない澄み切った青だった気がする。もしかすると彼は理性を取り戻したのだろうか。しかしそれを確かめる術は今のカルヴィンにはない。  クリフォードに血液を奪われたせいなのか、頭が朦朧とする。カルヴィンは何も考えることができず、そのまま意識を手放した……。 《Act Ⅲ Scene 5 : 血に飢えた悪魔。 /完》

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