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Act Ⅲ Scene 5 : 血に飢えた悪魔。 ⑦

 あともうひと巻き解けばクリフォードの躰が拘束から解かれ自由になる。そう思った直後だった。  突然クリフォードの目が開いた。  カルヴィンはクリフォードの名を呼ぼうと口を開けた。――瞬間だった。全身に強い衝撃が走る。伸びてきた腕に躰が引っ張られた。  ベッドが軋みを上げる中、カルヴィンが次に目を開ければ、目の前にはクリフォードがいた。  カルヴィンはクリフォードに組み敷かれていたのだ。  目が覚めたのかと、カルヴィンの顔が晴れやかになる。しかしどうも様子がおかしい。  どんなにクリフォードの名を呼んでも返事がないのだ。それに彼の眼はカルヴィンが見惚れた澄んだ青ではなく、まるで井戸の中を覗いているような深い闇色で、焦点が合っていない。虚ろだった。  カルヴィンがはっとして目を見開けば、細い管で繋がった彼の腕がカルヴィンが着ていた分厚いコートごと着ている衣服のすべてを引き千切った。  コートやズボンに取り付けられていたボタンが散り散りになって床に落ちる。  日中どんなに出歩いても日焼けひとつしない肌に、じゃがいもしか口にできなかった質素な食生活では骨ばかりの貧相な躰。  暖炉の炎に照らされた室内に突如として一糸も纏わない無防備な姿を露わにされたカルヴィンは恐怖に襲われる。  悲鳴を上げ、考えもしなかった事態がパニックに陥らせる。  両手足をばたつかせ、必死にここから逃げようと試みるものの、けれどもカルヴィンが危険だと察知した時は遅かった。

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