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Act Ⅲ Scene 6 : 美しいひと。 ④

 そんなカルヴィンの心情を知らないクリフォードは手首に取り付けられていた献血用の大きな袋とチューブが繋がった針を抜き取った。 「貴方の別荘だよ。ティムが運んでくれたんだ」  彼とひとつのベッドを共有したからといって別にどうということはない。動揺している自分に言い聞かせながら、クリフォードに返事をする。  カルヴィンはベッドの上に寝たままいる自分がどうも男娼のように思えて気恥ずかしくなった。居ても立っても居られなくなってクリフォード同様、ベッドから起き上がった。  そんなカルヴィンの目は自分が着ていただろう服を探して部屋の隅から隅までを何度も行き来する。  ようやく見つけたチュニックに袖を通せば、見事なまでにボタンが消え失せていた。クリフォードに引き千切られたのだと思えば躰はさらに熱が灯るから困りものだ。  心臓が大きく鼓動を繰り返している。カルヴィンはどうにか平常心を装いながらクリフォードと向き合う。  ――のだが。  いったいどうしたことだろう。クリフォードはカルヴィンを見るなり眉根を寄せ、不快そうに唇の端を吊り上げた。 「おれは君の血を吸ったのか?」  低い声のトーンは半ば脱力気味だ。クリフォードの表情に反して悲しみと罪悪感。そして後悔に染まっていた。カルヴィンははっとした。 「ううん。吸わなかったよ」  嘘をついた。  どうしても血液を吸われたという真実がクリフォードを打ちのめすのではないかと思ったのだ。

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