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Act Ⅲ Scene 6 : 美しいひと。 ⑤
真実だが偽り。偽りを真実だと疑われないようベッドから下りる。その瞬間、突然カルヴィンの目の前が黒のモザイクに覆われた。
体勢が崩れる。このまま倒れるのかと思いきや、気が付けば力強い腕の中に収まっていた。
ただでさえ体力のない自分がこうやって倒れそうになってしまえばどんなに元気に振る舞ったとしても無駄に終わる。
ひとつのベッドに横たわり、一糸も纏わない姿を披露したし、何よりも貧血を起こして倒れそうになったのが決定的だ。クリフォードは確信したようだ。
「……飲んだんだな」
「だけど、でもっ!」
誰に言うでもなくぼそりと囁いた言葉に、カルヴィンは声を張り上げた。けれども何をどう説明すればいいのかわからず言葉に詰まる。それが余計にクリフォードの顰蹙 を買った。
「いいか、カルヴィン・ゲリー! 君は危うくもう少しで命を失うところだったんだぞ!」
なんという愚かなことをしたのかと彼は叱咤する。
「聞いてクリフォード! ぼくは死ななかった! 死ななかったんだよ……」
クリフォードの声は怒りを含んでいる。けれどもこの怒りはけっしてカルヴィンに向けてではなく、自分への自責の念だった。だからカルヴィンも負けじと声を張り上げ、クリフォードを真っ直ぐ見据えた。
「それにこれはぼくが勝手にしたことだ! 貴方が苦しむ必要なんてない」
どうかわかってほしい。自分を責めないでほしいとカルヴィンは懸命に話しかける。
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