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Act Ⅲ Scene 6 : 美しいひと。 ⑦
カルヴィンはパニックに陥ってしまう。それでもおかしなことに、クリフォードとの情交を勘違いされてしまうという不快な感情はまったくなかった。
これまで生きてきて今まで、カルヴィンの容姿は中性的で体型もこんなだから、マートにしても同性に誘われることが多かった。いや、むしろ女性から誘われたりこちらから誘ったりすることの方が皆無だ。
だから同性に好かれる自分が嫌いだったし、枯れ枝のような体型にもコンプレックスを抱いていた。年頃の男性のようにもっと凛々しくありたいと思い、同性に好かれる自分を恥じた。
それなのに――……。
今はどうだろう。
ティムにクリフォードとの関係性を疑われることよりも羞恥の方がずっと上なのだ。
――いや、それよりもおかしな感情がある。
クリフォードに抱かれても良いと思う自分さえいるのだ。生まれ出るこの感情が余計にカルヴィンを落ち着きなくさせる。
そんなカルヴィンに対してクリフォードはとても冷静だ。ベッドからシーツを引き剥がすとカルヴィンの躰にくるませた。
それからクリフォードは立ち上がるとカルヴィンの前に立ち、やって来たティムから視線を遮るようにしてドアの前に立ちはだかった。
「ティム、早かったな」
クリフォードの声の調子も態度も怪我をする前と少しも変わらない。ティムの姿はクリフォードで遮られていてよくは見えないが、おそらく彼もまたここを立ち去る前と少しも変わらない様子なのだろう。
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