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Act Ⅲ Scene 6 : 美しいひと。 ⑧
「いいや、あれから二日は過ぎたよ、ボス。けっして早かったということはないね。――とはいえ、貴方が無事で何よりだよ。それでカルヴィンはどうしてる?」
ティムの口から突然カルヴィンの名を呼ばれ、またもや心臓が大きく跳ねた。自分とクリフォードの間には一切何もないのに、羞恥に襲われてしまう。
カルヴィンはシーツを握り締め、躰をいっそう縮めて丸まった。
「よほど疲れていたらしい。よく眠っている」
入口の前でクリフォードとティムの話す内容が聞こえている。支配人のティムに眠っていると嘘をついたのは、カルヴィンの姿を見せないようにするためだろう。クリフォードはカルヴィンを思いやってくれているのだ。
そう思えば嬉しくて心が震える。クリフォードに付けられた吸血痕に触れれば熱が宿るのを感じる。カルヴィンはまたもや喘ぎそうになって唇を引き結んだ。
「バランの様子はどうだ?」
「奴は君を葬り去ったと思っている。君には一般人種 の協力者はいないと思い込んでいるようでね。すっかり気分を良くした奴は近々社交パーティーを催すらしいよ。それでどうする?」
「奴が警戒心を解いているのなら好都合だ。今のうちに戻ろう。ここでは風呂も、まともな食事もできない」
クリフォードの言うまともな食事とは、カルヴィンの食べ物を示していることは容易に理解できた。もともとこの場所はクリフォードにとって命に関わる緊急時の避難場所という役目がある。
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