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Act Ⅲ Scene 6 : 美しいひと。 ⑨
食事のための調理や風呂など火を焚けば、当然のことながら煙突から煙が漏れる。それだけ敵に見つかるリスクが高まるのだ。隠れ家として使うこの場所を敵に見つかるのは好ましくない。
自分事ではない他人の体調さえも考える彼は、やはりとても思いやりに溢れた男性だ。彼がヴァンパイアであろうがどうだろうが根本的な人柄は変わらない。
しかしこれではっきりした。
カルヴィンの食事は以前のまま変わらない。ならばどうやら自分はまだヴァンパイアになってないようだ。
ではヴァンパイアに噛まれたからといって同族になるわけでもないのなら、いったいどうなればクリフォードと同族になることが可能なのだろうか。
ふとした疑問が脳内に浮かび上がり、カルヴィンは慌ててその疑問を押しやった。
(ぼくはいったい何を考えているんだ)
この疑問はまるで彼と同族になりたいと思っているようではないか。
「カルヴィン?」
どうやらティムとの話しは終わったようだ。気が付けばクリフォードは目の前にいる。
ああ、前髪を掻きあげる何気ない仕草もセクシーだ。ことさら美しい鋼のような肉体を披露している今は――。
クリフォードが何か訊いている。けれどもカルヴィンはたくましい肉体美に見惚れて聞き取ることができなかった。
無言のままで呆然としていると、クリフォードはもう一度ゆっくりと口を開いた。
「ティムが迎えに来ている。おれは屋敷に戻るが、君もそれでかまわないか?」
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