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Act Ⅲ Scene 7 : だから、貴方のせいじゃないですってば! ③

 馭者(ぎょしゃ)を務めてくれたティムの存在をすっかり忘れてクリフォードばかりに意識が向いていたのだ。申し訳なく思う反面、けれどどうやってもカルヴィンの意識はハンサムなクリフォードに向いてしまうのだ。  ああ、顔が熱い。だからきっと耳まで真っ赤に違いない。今の自分が簡単に想像できてしまうから余計、羞恥に見舞われる。  クリフォードは果てしないカルヴィンとの決着がつかない攻防に苛立ちをおぼえたのか、はたまた呆れたのか。あからさまに大きなため息をつくと馬車を降りた。  彼はてっきりカルヴィンそっちのけで先に屋敷に戻ると思っていた。だからカルヴィンの方へ伸ばされた腕の対応に遅れてしまった。  ふんわりと座席から腰が浮く。気がつけばクリフォードの腕の中で横抱きにされていたのだ。 「あのっ!」  オークモスの優しい香りが鼻をつく。クリフォードがずっと近くにいるのだと思い知れば思い知る分、躰が熱を帯びる。 「ひとつ言っておくが自分で歩けるという愚かな意見なら聞かないぞ。なにせ君は一度ならず二度までも倒れかけたんだ。大人しく掴まっていなさい」  抗議のひとつでもしようと口を開けば、クリフォードは平然と言ってのける。一方でカルヴィンは恥ずかしくて仕方がない。  カルヴィンはクリフォードの肩に手を回し、せめて後ろにいるティムには真っ赤な顔を見られないよう躰を縮めるのに努めた。  そして心の中ではティムにこの姿を見られていませんようにとけっして叶わない願い事を呟き続ける。

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