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Act Ⅲ Scene 7 : だから、貴方のせいじゃないですってば! ⑧

オートミールの粥(ポリッジ)くらいならすぐ作れるが食べられそうか?」 「えっと……はい。でも台所は従業員に見つかるんじゃ……」 「この時間帯は賭博クラブの会場で調理しているから問題ない。食事の用意をしている間、風呂にゆっくり入ってくるといい。あとで必要な着替えも持って来よう」  本当に彼はこの屋敷の主人だろうか。食事だって料理人(シェフ)の仕事だし、衣服の用意も本来なら執事(バトラー)に手配させるべき仕事だ。それなのに、伯爵自らが進んで仕事をするなんて聞いたことがない。  クリフォードの優しい気遣いに胸が高鳴る。  クリフォードは浴室があるドアを指差し、ぼそりと呟くとカルヴィンから背を向けた。だから彼は知る由もなかった。カルヴィンが両腕で躰を包み込み、甘い吐息をこぼしたことを――。  室内も広いことながら、浴室もまた広い。木造のそこは浴槽の中に溜められた温水がもくもくと湯気を放ち、辺りをしっとりと濡らしている。  蛇口から出る風呂の水もまた、あたたかかった。浴槽の水は一階にある調理用レンジから温められているのだろう、配管からお湯が流れている。  やはり彼と自分とでは住む世界が違う。クリフォードが歴とした上流階級の人間なのだと思い知らされる。しかしだからといっていったい何がどう関係するというのか。きりりと胸が痛むのはきっと気のせいだ。  衣服を脱ぎ、浴室に入ったカルヴィンは生まれた胸の痛みを打ち消すために小さく首を振る。それから桶から湯を汲み、躰にかければ思ったよりもずっと熱く感じて身動ぎした。

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