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Act Ⅲ Scene 7 : だから、貴方のせいじゃないですってば! ⑩

 整った双眸は彼がヴァンパイアである由縁なのか、それとも初めから持っている気質なのか。  もし、あの腕に抱かれたなら――。  ただクリフォードの事を考えただけなのに、顔が熱くなる。そればかりか躰ものぼせ上がってしまう。果たしてカルヴィンが浴室から出た時、顔が赤いのは風呂で温まったからという理由だけで信じてくれるだろうか。  彼に噛まれた痕から新たな熱が生み出されるようだ。 「ポリッジはナイトテーブルに置いてある」  熱を持つ躰を覆うのがたった一枚のバスローブだなんて心細い限りだ。せっかく運んできてくれた衣服がこれだけだなんて!  カルヴィンはクリフォードから上気する躰を隠すための分厚い防具が必要に思えて仕方がなかった。  いったいこの感情はなんだろう。悲しくもないのに視界が揺れ動く。熱を持つ躰と心臓の動悸が激しい。  こんな状態でクリフォードと目を合わせればどうなってしまうのだろう。  戸惑うばかりのカルヴィンだが、こちらには一向に目も暮れずクリフォードはぶっきらぼうにそう言うと、入れ替わるようにして浴室へと消えてしまった。  あんなに目を合わせたくないと思っていたのだが、こうまでして自分を見ないまま素通りされると虚しくもなる。  ほっとする一方で虚無感が生まれた。  落胆と、それから安堵の気持ちが入り交じったなんとも言い表せないため息をつき、ナイトテーブルを見やれば、クリフォードが宣言したとおり平皿の上に湯気が上るポリッジが見えた。

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