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Act Ⅲ Scene 9 : nightmare ①
空が白じむ頃。クリフォードはどこからか聞こえてくる苦しげな声で覚醒した。
――時期に夜が明ける。
ヴァンパイアにとって陽の光は最大の弱点ともいえる。陽光を浴びればたちまち肉体は腐敗し、灰と化してしまうのだ。だからヴァンパイアは太陽が昇りはじめると使い物にならない。
おかげで躰は鉛のように重く、ひとりでに瞼が下がる。気を抜けば意識が飛ぶ始末だ。それでも、クリフォードは襲い来る眠りと格闘した。それというのも今もなお聞こえ続ける苦しげな声をどうにかしてやりたいと思ったからだ。
依然として窓には分厚い遮光カーテンが覆っている。眠る前には勢いよく燃えていた暖炉の炎が今にも消え入りそうなほど弱々しい。
下りてくる瞼をどうにかこじ開け、声がする方を見やれば――。
途端にクリフォードの眠気が一気に吹き飛んだ。
ああ、まただ。
悪夢を見ているのか、カルヴィンがうなされている。
彼は何もかもを遮断しているかのようだ。こちら側から背を向け、表情はまるでわからないが、躰を丸めて縮こまる姿は恐ろしい何かから身を守っているようだ。背中を震わせ、声を漏らさぬよう必死に押し殺して泣いていた。
その姿はクリフォードの胸に引き裂かんばかりの痛みを生み出した。
少し手を伸ばせば届く距離。自分が近くにいるのに一切を遮断し怯える姿がクリフォードの胸を痛める。
「カルヴィン?」
クリフォードは起き抜けのために掠れた声で悲しみの真っ直中にいるだろう彼の名を呼ぶ。カルヴィンの様子を知るために身を乗り出してみた。
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