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Act Ⅲ Scene 9 : nightmare ④

「カルヴィン、君は悪くない。彼女を助けられなかった自分を責める必要はないんだ」  責められるべきはその場にいた無力な自分であってカルヴィンではない。そもそも自分が淫魔の吸血鬼(インキュバス・ヴァンパイア)に匹敵する力を持ってさえいれば、すぐにバランを倒せたものを――。  そうなればカルヴィンは姉を失うこともなかったし、彼自身をここまで悲しませる事もなかった。何より、カルヴィンがバランに狙われる必要さえもなかったのだ。 「――すまない」  クリフォードはカルヴィンの額に頬を乗せ、心から謝罪した。  自己嫌悪がクリフォードの胸を苛める。  カルヴィンはクリフォードの腕の中で黙ったまま小さく首を振った。 「貴方だって過去も今も精一杯やっている。――ねぇ、さっきの呼び方が気に入ったんだ。もう一度ぼくを呼んでみせて?」 「ラブ」  クリフォードが口にすると、カルヴィンの腕がクリフォードの背に回った。胸板に頬を擦り寄せ、甘えてるいるようだ。吐いた息は甘い声を漏らした。  カルヴィンの躰は完璧だった。女性の柔らかな部分こそないが、クリフォードの腕にすっぽりと入るほど華奢だ。まるでパズルのピースがかちりと嵌ったかのような感覚になる。  なにより、彼はあのむせ返るような香水の匂いも媚びるような目も向けてこない。  今は風邪をひくからと下着もドロワーズも着せてしまったが、日焼け知らずの柔肌は闇夜の中でも発光しているようにも見える。

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