211 / 275

Act Ⅲ Scene 9 : nightmare ⑤

 普段は強気な翡翠の目が情事の最中では潤み、喘ぐ声も良い。そして女性にはない箇所はクリフォードと同じでひとたび欲望を灯せば手に取るようにわかる。そこから蜜を流す卑猥さも妖艶で美しい。  彼の姿を頭に描いたクリフォードはもう一度カルヴィンを抱きたいと思った。クリフォード自身へと徐々に熱が集まる。しかし今は不謹慎だ。悪夢から目覚めたばかりのカルヴィンの気持ちを考えれば自分の愚かな欲望を満たしている場合ではない。  クリフォードは自分を叱咤し、欲望と抗うため、カルヴィンを抱きしめる腕にもう少し力を込めた。  クリフォードのそれをカルヴィンは励ましだと勘違いしたのか、今度はカルヴィンが口を開いた。 「クリフォードのご両親はどんな方なの?」 「君も知っているとおり、ぼくの母親はもともと躰が弱く、二十七の時に亡くなった。父は――」  そこまで言うと、クリフォードの口がひとりでに止まる。 「あの、ごめんなさい。立ち入ったことを訊きすぎました。話したくないならいいんだ」  カルヴィンは首を突っ込みすぎたと思ったのだろう。慌てていた。  けれどもこちらとしてはもう百五十年以上も昔のことだ。今さらどうというわけではない。クリフォードは首を振り、話を続けた。

ともだちにシェアしよう!