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Act Ⅲ Scene 9 : nightmare ⑥

「ぼくの父は母を愛していたよ。躰が弱い彼女のためにヴァンパイアの傘下に入ったが、時は既に遅く、母の躰はあまりにも衰弱していてヴァンパイアにすることができなかった。父は死に逝く母をただ指を咥えて見ているしかできなかった。そして愛する妻を失った父は死を恐れた。父はぼくを化け物へと変貌させると間もなく失踪したよ……」  なぜ父は自分を置いて去ってしまったのだろうか。本当に息子のことを想っているのなら、愛しているのなら妻を失った悲しみから逃げず、不死という手段ではなく、息子と共に生き抜くべきではないのか。  百五十年が過ぎた今でも父親の考えていることがわからず仕舞いのままだ。 「お可哀相に……」  依然としてカルヴィンはクリフォードの胸に顔を埋めたままだ。過去の出来事はすっかり終わったことだと思っていたのに、少し前よりも躰はずっと冷えていた。カルヴィンからあたたかな体温を感じてはっとした。 「いや、ぼくは君とは違って母を失ったのは成人してから七年も過ぎた後だからね。況してや父親が失踪して困る年齢でもない」  クリフォードが首を振り、どうということはないと話せば――。 「年齢なんて関係ないよ。辛いものは辛いんだから……」  カルヴィンはクリフォードに身を寄せた。  カルヴィンを慰めるはずが慰められている。  誰かに慰められるなんて何年ぶりだろう。母がこの世を去った時も、父が失踪し、一家の柱を失ってから伯爵の地位を守るために必死だった時でさえも、誰も手を差し伸べてはくれなかった。

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