214 / 275

Act Ⅲ Scene 10 : 同じ気持ち? ①

 バラン・ド・ゴドフリーの正体も恐ろしい本心も何も知らなかった当初でも、カルヴィンはシャーリーンの恋には反対だった。  それというのも、身分違いの相手に恋をするシャーリーンの気持ちがまったく理解できなかったからだ。  だって公爵と男爵では身分が違いすぎる。たしかに、公爵家の主人の下で働いていたメイドが見初められ、結ばれた事例はいくつか聞いたことがある。けれどもそれは万に一つ。  カルヴィンから見たシャーリーンはたしかに姉びいきかもしれなが美しいと思う。――とはいえ、シャーリーンは公爵家に雇われたメイドでもなければゴドフリーと幼馴染みという近しい存在でもない。ほとんど知らないふたりが社交界で出会い、見初められて結ばれる確率なんて無いに等しい。身分不相応の相手に恋をすること自体が間違っていると思っていた。たとえ恋仲になったとしても、遊ばれていると思っただろう。  ゴドフリーは平気で他人の命を弄ぶ憎むべき存在だが、けれどもシャーリーンの方にも問題がないかといえばそうではない。己をわきまえず、身分不相応の相手を追いかけた結果が命を落とした原因でもあるのだ。  けれど――。  カルヴィンはクリフォードと出会ってしまった。彼にこうして力強い腕に抱きしめられているだけでも強くなった気持ちになるし、色褪せていた世界が鮮明に見える気がする。すべてが光輝いているように思えるのだ。  もしかするとシャーリーンもゴドフリーといた時、こんな気持ちでいたのだろうか。

ともだちにシェアしよう!