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Act Ⅲ Scene 11 : equal ①

 果たして彼は何と言ったのだろう。 『ゴドフリーは日中でも動ける』  たしかにカルヴィンはそう言った。  有り得ない。  ヴァンパイアは地球上に住むあらゆる生物よりも嗅覚、視覚、聴覚、味覚、触覚のいわゆる五感に優れており、他にも運動神経など神経系も発達している。一般人種(オーディナリー)よりも抜きん出た力を持つ。そしてさらには自分の躰を黒い霧に変える力も持ち得ている。  一般的には考えられない悪魔のような力を得た代わりに、その対価として太陽の下に出られない肉体に変化している。闇に生きることしかできない肉体だが、こうしてこの世界の均衡は守られているのだとクリフォードは理解していた。  しかし、彼の話だとバランは日中でも出歩けるという。  彼の思い違いなのか、ただの戯れ事なのか。  深い眠りの中にいるカルヴィンを起こし、問い質したところでもし、それが事実であったなら――。  バランが太陽の光を浴びても生きていられるのだとすれば、自分は恐ろしい思い違いをしていたことになる。  冷たい汗が毛穴から吹き出す。  カルヴィンを抱き、人肌のぬくもりを感じたと思った躰は冷たく凍え、まるで冷水を浴びせられたように力が入らない。  早鐘を打つ心臓はまるで震えているようだ。先ほどまではたしかに静かで穏やかだと感じたこの空間は一変し、今となっては体内に流れ続ける血液の音が煩いくらい、やけに大きく聞こえてくる。この空間が息苦しく感じるばかりだ。

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