223 / 275
Act Ⅲ Scene 11 : equal ③
クリフォードを魅了して止まない翡翠の目に抗いきれなかった。カルヴィンを抱いてしまった。
もし、クリフォードがカルヴィンを抱いたとバランに知られればどうだろう。バランの中でカルヴィンの価値が下げられ、用済みになるか、あるいは怒りを買ってしまう恐れがある。なにせインキュバスというヴァンパイアは処女の血を好む傾向にある。
カルヴィンの肉体さえも自分の思い通りに調教し、愛玩具として側に置こうと企んでいた。そのカルヴィンを自分の思い通りにできないと知ったならば、おそらくバランは怒り狂うだろう。
カルヴィンの命を奪うかもしれない。いや、それならばまだ易しい。生きた屍として永遠に苦痛を与え続けるかもしれない。
この可愛らしい彼の顔が青ざめ、姉と同じように失望の涙で頬を濡らし、悲鳴を上げる姿なんて想像さえしたくない。
これから先のことを考えると胸が押し潰されるような強烈な痛みがクリフォードを襲う。まるで自分の体内の一部が剥がれ落ちていくような、そんな感覚だ。
しかしどんなに焦ったところで自然の力には勝てない。
時期に朝が来る。ヴァンパイアとして生きる自分がこんなに無力だと痛感したことは今までにない。どんなに抵抗したところでクリフォードの肉体は限界だった。
深い闇の淵がぱっくりと口を開け、クリフォードを誘う。
クリフォードは藁にも縋る思いであたたかなカルヴィンの躰を強く掻き抱く。
これは悪い夢だと自分に言い聞かせるようにして――。
《Act Ⅲ Scene 11 : equal / 完》
ともだちにシェアしよう!