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Act Ⅲ Scene 12 : 気勢。⑦

 暖炉では今朝とは打って変わって勢いよく炎が踊っている。  誰もいなくなった室内に乾いた音が広がる。  顔が熱い。あからさまなティムの言葉が昨夜の出来事を思い出させる。  カルヴィンがベッドの中に潜り込めば、クリフォードが残したオークモスの香りが鼻をついた。  手を伸ばしても、分厚い胸板も美しいオリーブ色の肉体も何もない。  熱を持つ躰はこんなにクリフォードを求めているのに、今、彼の姿がないことが苦しい。  カルヴィンはただただクリフォードの無事を祈るしかなかった。  ――クリフォードから連絡がないまま、三日が過ぎた。賭博クラブを経営していることもあってか、カルヴィンの生活リズムはすっかり夜型に変化していた。静寂の闇が周囲を包む頃、カルヴィンが目覚めると、身長が1メートルくらいの少女のドールが隣に置いてあった。可愛いブラウンのドレスに身を包んでいる。白い肌に大きな翡翠の目。金色に波打つ長い髪。どことなく、シャーリーンに似ている気がする。このドールはクリフォードからの贈り物だとすぐにわかった。 「クリフォード……」  そっと彼の名を呼んでも空気に溶けて消えていく……。  貴方はどこにいるの?  三日間、顔を合わせていないだけなのに、心に穴があいたように感じる。いったい自分はどうしてしまったのだろう。まるで魂の片割れがどこかに行ってしまったようだ。 (貴方に会いたい……)  カルヴィンはドールを抱きしめ、冷たくなった自分の躰をあたためるように抱きしめた。  《Act Ⅲ Scene 12 : 気勢。/完》

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