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Act Ⅳ Scene 1 : 最後の決着をこの場所で。⑥

『窮地に立たされた王を助けた騎士』として名を馳せるバラン・ド・ゴドフリーは貴族の中でも一際輝かしい功績を残している。そういうこともあってか、彼の屋敷はひときわ高い崖の上に建てられており、反対側は海が広がっていた。  ゴドフリーの庭園は他の貴族たちとは一風違っている。それというのも、庭園は二階のテラスに設置されているのだ。テラスといっても庭はとても広く、アイビーを基調にした周囲にはすらりとした背の高い白樺の木が植えられるほどだった。冬の季節でも色を残し、アイビーが自由に伸びている。直径十センチの枯れたアリウムさえも美しいオブジェのひとつとして存在していた。  今夜ゴドフリー邸で開かれる社交パーティー会場はその庭園に面している。  外観も美しいこの屋敷の主、バラン・ド・ゴドフリーは、しかしこの屋敷とはまるで正反対の恐ろしい人物だ。淫魔の吸血鬼(インキュバス・ヴァンパイア)。自分の欲望を満たすためなら人の命さえも平気で奪ってしまう彼は獰猛でおぞましい悪魔だ。世間を騒がせている殺人鬼がまさかこの豪邸の主人だとは誰も疑わない。  現にカルヴィン自身も彼のおぞましい裏の顔を見るまでは犯人だと思わなかった。もっともらしい犯人がいたからだ。 "CURSED BLOOD(呪われた血族)"そう悪名高い噂が流れるクリフォード・ウォルターが……。  けれどもクリフォードは世間で噂されるほど悪人というわけでもなく、冷酷な伯爵でもなかった。

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