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Act Ⅳ Scene 1 : 最後の決着をこの場所で。⑧

 ただし、彼女たちのお目当てはクリフォード・ウォルター伯爵ではない。  バラン・ド・ゴドフリー公爵。  彼は金色の波打つ髪を後ろでひとつに束ね、紫色のジュストコールに身を包んでいる。彼は今まさに礼儀正しいハンサムな公爵という皮を被り、会場中央に集ってくる紳士たちと会話を交えていた。  カルヴィンはバランに気づかれないようできるだけ視線を外し、目立たない壁の方へと移動した。それからお守り代わりにと会場に着いてからもずっと手にしていたこの場に不似合いな可愛らしいドールをテーブルの下にそっと隠す。  ドールが腕から離れれば、急にひとりきりなのだと思い知らされて不安がカルヴィンを襲う。気を抜けば膝はがくがくと震えだし、心細くて泣き出しそうになる。  カルヴィンと共にバランの屋敷にやって来たティムは今、馬車を降り、屋敷の外を見張っている。カルヴィンが大声を出せばすぐに駆けつけてくれる手筈になっていた。  この会場のどこかにきっとクリフォードは居る。姉シャーリーンの仇である忌々しいバランはすぐに見つけられるのに、心の底から愛している男性ひとりも見つけられないなんて!!  クリフォードに会いたいという気持ちは募るばかりだ。それなのにカルヴィンは女装がばれないよう、壁際にいるのがやっとだった。舞台の中央にいるバランの目をすり抜け、クリフォードを捜すのにも一苦労だ。  カルヴィンはテーブル下に置いてあるシャーリーンに似たドールを抱きしめたい衝動に駆られたが、代わりにドレスの裾を握り締め、この場をどうにかやり過ごそうとした。

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