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Act Ⅳ Scene 1 : 最後の決着をこの場所で。⑨

 会場ではむせ返るような香水の匂いが充満し、着飾った貴婦人たちの容姿とは裏腹に、他人を蹴落とそうとする気配が渦巻いている。すべてにおいて空気の悪い会場にいるだけでも神経がどうにかなりそうだ。  カルヴィンは吐き気に襲われた。三拍子のワルツが流れはじめているが、その音色は少しも美しいとは思わなかった。会場全体を包む曲は空気に振動して頭痛を伴わせる。いったいどうやってこの中で踊れというのだろう。カルヴィンが頭痛と吐き気に襲われている中、ひとり、ふたりと紳士は淑女を誘い、会場の中心で曲に合わせて踊り始める。  緊張で吐きそうだ。視線はひとりでに下へ落ちていく。  足下に広がる分厚い絨毯は容易に足音を吸収する。おかげでこちらにやって来る男性の足音すらもわからなかった。自分よりもずっと背が高く、男性らしい力強い躰を光沢のある漆黒のジュストコールで包み、すらりとした足の長い男性の存在を知ったのは、彼がカルヴィンの目と鼻の先に立っていたからだ。  目の前の紳士を見た瞬間、カルヴィンは自分の目を疑った。なにせ彼こそカルヴィンが捜していた男性――クリフォード・ウォルター本人だったのだから。 「ぼくと踊ってはいただけませんか?」  その彼は、今自分の目の前にいるドレスを着た女性がまさか扮装しているカルヴィンだとは思ってもいないのか。跪き、手を差し出している。  とても恭しくカルヴィンを見つめ、微笑を浮かべている。彼がひとたび微笑めば、淑女はどんなことでも喜んで許可するだろう。

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