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Act Ⅳ Scene 1 : 最後の決着をこの場所で。⑬

 彼のエスコートは完璧だった。恐ろしいほどの運動神経が鈍いカルヴィンを巧みに誘導する。力強い腕が枯れ枝のような細い躰を支えながら、軽やかなステップで円を描かせる。ジュストコールに顔を埋めると、柔らかなオークモスの香りが鼻先をくすぐる。カルヴィンは彼に寄り添うのが当たり前のように身を寄せ、従順に動いた。クリフォードが側にいてくれさえすれば、例えこの場所が敵地であってもどうでもよかった。カルヴィンのすべてがクリフォードに向けられている。  シャンデリアから放たれる粒子はまるでダイヤモンドだ。乳白色の光のつぶてが視界のすべてに降り注ぐ。幻想的な音楽も、ダンスも、すべてがカルヴィンを夢見心地にさせた。 「君は美しい。どこまでも広がる麦畑のような金色の髪。輝く翡翠の瞳は吸い込まれそうだ」  彼の甘い吐息が耳孔をくすぐる。耳障りのよい低音は下肢に熱をもたらした。  彼の長い指がうなじに流れる後れ毛に触れる。すると彼に触れられた箇所から背筋に向かって痺れるような電流が走り抜けた。カルヴィンは慌てて自分の下唇を噛み、場違いな所で喘ぎそうになった自分を制した。クリフォードが相手だと躰はこんなにも敏感に反応する。今の自分は初恋を知った少女のようだと、カルヴィンは思った。今だけはゴドフリーなんてどうでもいい。そう思うぼくはなんて自分勝手な人間なのだろう。  少なくともシャーリーンへの罪悪感がカルヴィンを襲った。顔を俯けば、彼の手がカルヴィンの顎をそっと掬い上げた。

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