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Act Ⅳ Scene 1 : 最後の決着をこの場所で。⑮
すっかり打ちひしがれたカルヴィンは美しい彼から離れた。彼の体温が消えたというたったそれだけで絶望の淵に立たされたように感じた。カルヴィンの胸は激痛に悲鳴を上げ、呼吸が苦しくなる。それでも、カルヴィンは人々の影を縫ってテーブルの下に置いてあったドールを抱えると逃げるようにして庭へ駆けた。
カルヴィンはまるで急な坂道を一日中駆け抜けていたような気分だった。小さな汗の数々が額に浮かび上がり、剥き出しの肩は彼が流した汗で湿っていた。息は切れ、心臓が激しく鼓動し、どくどくと悲鳴を上げている。首筋の大きな血管は脈を打ち、一気に血液が流れているのを感じる。逃げ場所を探して鬱蒼と生い茂る緑の中へ飛び込んだ。酸素不足で目眩がする。荒い息を繰り返す呼吸をなんとか整えようと蹲る。
カルヴィンは、人々に男が女性に扮してまでゴドフリーが開いたパーティーに参加したことを知られ、ゴシップになるのが嫌だった。
いや、カルヴィンがそれ以上に恐れたのは、クリフォードに会いたい一身で女性に扮装し、パーティーの開催者に命を狙われている危険をかえりみず敵地に潜り込んだ愚かな自分を嘲笑し、軽蔑の眼差しを向けられることだ。クリフォードに嫌われるということはカルヴィンにとって死よりも苦しい出来事だった。それほどまでに彼を――クリフォード・ウォルターを愛してしまったのだ。
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