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Act Ⅳ Scene 1 : 最後の決着をこの場所で。⑯
呼吸が落ち着いてくると、会場からはまた、軽やかなワルツが聞こえはじめていた。クリフォードは今頃、会場で新たな女性を虜にしているに違いない。きっと彼女は喜んで彼の男らしい分厚い胸板に身を寄せるだろう。もしかしたら先ほどカルヴィンを口説いたように甘い愛の言葉を耳元で囁き、彼女の唇を奪っているかもしれない。そしてその女性と夜を共にするのだ。クリフォードと見知らぬ女性とのベッドシーンを想像した時、カルヴィンの胸は張り裂けそうに痛み出した。せっかく落ち着きを取り戻しつつあった呼吸はクリフォードのことを考えただけでまた乱れてしまう。
――寒い。けれどもこの寒さは物理的なものではない。愛している男性から永遠に与えられることのない愛を思い知ったからだ。カルヴィンはドールを抱きしめたまま両腕を自らの両肩に巻きつけ、悲しみで冷え切った躰を抱きしめた。悲しいのはひとりだけ。会場では誰しもが楽しく過ごしているだろう。
今、この時。この場所は自分ひとりきりの空間だと思い込んでいた。けれどもどうやら庭には先約がいたようだ。ほんの少し先にふたつの影があった。あらゆる場所へと自由奔放に伸びているアイビーの庭先で――彼は彼女の腰に腕を回し、彼女は少し恥じらいを見せながらくすくすと笑っている。ふたりは何やら親密なやり取りを交わしていた。バラン・ド・ゴドフリーだ。
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