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Act Ⅳ Scene 2 : decisive battle ④
カルヴィンは抵抗しなかった。クリフォードが無事にバランから逃げられるよう時間を稼いでおく必要があると思ったからだ。
鋭い牙が柔肌に触れた。彼が肌を貫く。しかし体勢を崩したのはカルヴィンではなく、バランの方だった。彼が体勢を崩した好機をクリフォードは見逃さなかった。
「カルヴィン!」
クリフォードがカルヴィンを呼ぶ。その時、カルヴィンの躰はまるで息を吹き返したかのように感じた。首筋からは彼の牙が――両肩からは彼の腕が消えた瞬間を見計らい、クリフォードはカルヴィンに向かった。そしてカルヴィンもうなる彼から背を向けて走る。背後ではバランがまるで地獄の底を這い回るような低いうめき声を上げている。
殺される!
カルヴィンはバランから殺意を感じた。恐怖で強張った躰と踵が高い靴を履いているおかげで駆けた足がよろける。おかげでドールがカルヴィンの手から離れてしまう。クリフォードは手を伸ばし、躓き、倒れそうになっているカルヴィンを抱き寄せた。
「クリフォード、クリフォード……」
「もう大丈夫だ」
しくしくとすすり泣くカルヴィンの頭のてっぺんに鼻先が乗る。彼はカルヴィンの腰を引き寄せ、力強く抱きしめた。クリフォードの側にいるだけでとても力強い気持ちになれた。彼の首に腕を回してしがみつく。
「貴様……よくも!!」
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