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Act Ⅳ Scene 2 : decisive battle ⑥
「クリフォード!」
カルヴィンが地面に跪くクリフォードに慌てて駆け寄れば、薄い唇は荒い呼吸を繰り返すばかりだ。
「威勢ばかりはいいようだが、お前とわたしでは力の差は歴然だ。望み通り殺してやろう」
「クリフォード、まだ躰に毒が残っているの?」
苦しそうに唇を歪めるクリフォードに向かってカルヴィンは訊ねた。けれども彼はカルヴィンを無視した。
「いいか、君は今すぐここから逃げろ。悔しいがぼくではあいつには勝てない」
彼は今、苦痛に顔を歪めている。その姿を見ていられなくて、カルヴィンは大きく首を振った。
「いやだっ!」
「良い子だから言うことをきいてくれ」
彼を見捨てて逃げるなんてどうしてできるだろう。
「九年前。バランを倒せず、君の姉さんを見殺しにしたのはぼくだ。せめて君だけでも守ろうとしたのにこの様だ」
カルヴィンの頬に手が伸びる。その手は温かで優しいものだった。
「生きろ」
カルヴィンはクリフォードに突き飛ばされた。
少し離れた場所に飛ばされ、しかも一般人の自分は為す術がない。恐怖で膝が戦慄き、思うように動いてくれない。その間にも、ゆっくりとした足取りでやって来たバランが彼の頭を蹴り上げた。クリフォードは為す術なく地面に倒れ込む。その拍子に短剣が彼の手から離れた。
「逃げろ!」
彼の声が木霊する。
「遊びは終わりだ、ぼうや」
クリフォードのみぞおちにバランの分厚い靴がのめり込んだ。為す術もなく地面に這い蹲るクリフォードを踏み締める。みしみしと醜い音をたて、クリフォードの骨が軋みを上げる。その残酷な音は少し離れたカルヴィンの耳にまで届いた。
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