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Act Ⅳ Scene 2 : decisive battle ⑦
「クリフォード!」
苦痛のうなり声がカルヴィンをどうしようもなく不安にさせる。
「助けて、誰か! ティム、ティム!!」
カルヴィンは目の前の大広場でワルツを踊る人々と、それから屋敷の外で待機しているだろうティムに助けを求めた。しかし周囲に何の変化も兆しもない。人が殺されようとしているにも関わらず、未だにワルツの明るい音楽が微かに聞こえてくるばかりだった。
「無駄だよ、わたしの魔力でこの庭の空間を切り離した。どんなに叫んでも助けは来ない」
バランは高揚した笑いを浮かべ、クリフォードの躰を踏みつける足の力を強めた。クリフォードのうめき声が上がる。
「無様なものだな。一度は尻尾を巻いて生き長らえた命を無駄にするとは。安心しろ、カルヴィンもすぐに後を追わせてやる」
彼はクリフォードから足を離すと忌々しげに彼の躰を強く蹴り上げた。それから再度、躰を足で踏みつけ逃げないように固定すると地面に落ちている短剣を手にした。
「これで終わりだ」
バランは死を宣告し、苦しげに咳き込んでいるクリフォードの首元目がけて短剣を振り下ろす。
クリフォードを助けなければ! カルヴィンが決断すると、みぞおちの奥に力が宿るのを感じた。今まで動かなかったカルヴィンの躰が動いた。おぼつかない足取りで、それでもクリフォードを助けたい一心でバランまで駆ける。
バランとの距離まであと一メートルといったところで大きく踏み出した爪先は、ものの見事にドレスの裾を踏んだ。カルヴィンはこんな危機的状況においても持ち前の運動神経を発揮したのだ。ドールを抱きしめたまま体勢が大きく崩れる。
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