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Act Ⅳ Scene 2 : decisive battle ⑧
――次の瞬間だった。カルヴィンが転ける反動でドールの腹部を思いきり押した。ドールの首元から頭部が下りる。同時に鋭い剣先が首から飛び出し、バランの喉元を貫いた。彼は思ってもいなかった不意の攻撃で急所を貫かれ、こちらを振り向いた。漆黒の目は見開き、信じられないものでも見るようにカルヴィンを見る。カルヴィンは肩で荒い息を繰り返し、力なく立ち尽くす。今度こそバランに殺されると確信した。
しかし、彼は膝から崩れ落ちた。やがて動かなくなった躰は煙と化して消え逝く……。
胸部を膨らませたりへこませたりと荒い呼吸を繰り返し、横たわる女性を見る。バランによって血液を抜き取られた彼女の肌は徐々に血の気が戻っていく――。だから彼女は時期に病院へ運ばれ、目を覚ますだろうことをカルヴィンは知った。
周囲に静寂が戻り、カルヴィンの荒い呼吸ばかりが聞こえる。クリフォードのうめき声を聞いた瞬間、カルヴィンは我に返った。彼は無事だ。そう悟ったカルヴィンは、全身から力が抜けていくのを感じた。ドールから手が離れる。クリフォードは助かった。
彼が生きていると理解すると、鼻の奥がつんとした。胸が強く締め付けられる。瞼が熱くなる――。だからカルヴィンはもう限界だと思った。やがてカルヴィンの膝が折れ、涙が堰を切ったかのように溢れ出す。 まるで幼子のように大声を出して泣きじゃくった。
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