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Act Ⅳ Scene 3 : 理性と感情のはざまで。④

「ぼくは今まで失うものは何もないと思っていた。そしてぼくは、誰からも必要とされていないとも――」  クリフォードの穏やかな青の目がカルヴィンを見つめている。カルヴィンは、彼が言ったことは嘘だと思った。屋敷であったり雇っている人々であったり。彼の領地に住む人々だってそうだ。彼を必要としている人間はたくさんいる。ことさらカルヴィンにとっても――。クリフォードに抗議のひとつでも言おうとカルヴィンが口を開けば、彼は続けた。 「だが、違った。ぼくの前に君が現れたんだ。君がバランに殺されると理解した時、胸が――魂が引き裂かれるんじゃないかと思うくらいの痛みを感じた。こんな気持ちは初めてだ。ぼくも君を愛している。心から――」 「だったら!」 「だからこそ! ぼくの勝手な都合で君を縛り付けることなんてできない」  カルヴィンの言葉に被せて彼はそう言うと、青い目を閉ざした。 「わかってくれ。ぼくは父のような自分勝手に振る舞いたくはないんだ」  なぜ、彼は勝手な都合と言い張るのだろう。彼の父親がクリフォードを同族にしたこととは何の関係もない。クリフォードは以前、カルヴィンに身の上を話してくれた。彼は父親の手によって無理矢理ヴァンパイアに変えられ、何も教えられずに孤独に生きてきた。父親に捨てられ、今までとは違った生き方を選ぶしか手段がないのはどれほど苦しく、悲しいものだろう。けれども、それはそれ。これはこれ、だ。過去のクリフォードと今、カルヴィンが置かれている状況はまったく違う。クリフォードはカルヴィンが同族になることを望んでいるという大切なことを無視しようとしている。彼はどうあっても自分を側に置かないつもりだ。

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