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♥4.想定外と予定外2(1)

 たどたどしく触れる指先が頬に触れて、かと思うと強引に口付けられる。一方的に滑り込んできた舌が、宰のそれを絡めとり、痛いくらいに吸い上げてくる。逃れようと顔を背けたくても、顎を捕らえている手がそれを許さない。身体を押し返そうにも、両手首は軽々と頭上で押さえつけられていた。 「っん、ぅ、離……っ」  宰のベッドよりも、行き慣れたホテルのベッドよりも、もっとずっと広く柔らかなベッドの上で、宰は一人の男に組み敷かれていた。  無造作に跳ねさせた短めの髪。形の良い眉に精悍な顔立ち。そのくせ笑えば一変して子供のように人懐こい印象になる。 「美鳥さん、綺麗です」  囁くようにそう言って、首筋に顔を埋めてきたのは優駿だった。 (なんで小泉(こいつ)と……)  頭の中で思うものの、それもすぐに掻き消される。首筋から胸元へと辿る優駿の唇が、不意にそこに色付く突起を含んだからだ。 「あっ、ぁ……!」  温かな口内へと引き込まれた先端に舌先が触れる。ざらりと擦るように舐められ、びくりと胸が浮いた。他方の手がもう一方の先にも触れて、と同時に、密着していた下肢が下腹部を戯れに揺すり上げてくる。 「ふ……っ、ぁ、待っ……」  離せと言っても離してくれない。待てと言っても待ってくれない。  こんな力ずくのようなのは好きじゃないのに、そのどこか即物的な手管に身体が勝手に反応してしまう。 「やっぱ美鳥さんなら行けそう、俺……」  笑み混じりに呟かれるが、よく聞き取れなかった。  宰が窺うように優駿を見上げると、優駿はふっと口端を引き上げた。 (こんな笑い方、するやつだったっけ……?)  こんな、口元だけで、目が笑っていないような表情(かお)――。  違和感を覚え、僅かに目を眇めた矢先、 「っ、!」  優駿は唐突に宰の脚を開かせ、その中心――よりも更に下へと手を伸ばした。  宰は既に衣服は何も身につけておらず、対して優駿は着衣したままだった。 「ぃ、……っ」  探り当てた窪みに、早急に押し入ろうとする指先の動き。思わず宰が声を漏らすと、「あ、やっぱそうですよね」と苦笑するような声が聞こえてきた。  優駿は一旦手を止め、ややしてそこにたらりと粘性の液体を垂らした。そして今度はそれを絡め、再び指を埋めてくる。 「んぁ……っ、あ、待……っ」  この男は本当にあの優駿なんだろうか。見た目は確かに優駿なのに、何だか別人のように思える。  ところどころでそう訝しむのに、そのたび半ば強制的に思考を遮断された。 「ここ、でしょ、いいとこって」 「っ! あっ……!」  示された場所を、内側から擦られ、押し上げられる。そのつもりもないのに高い声がこぼれて、艶かしく背筋がしなった。  優駿のやり方が間違っているわけじゃない。  だけど何だか独り善がりで中身がないような感じがする。  普段の優駿からはかけ離れた印象のそれが宰にはどうしても信じられなかった。 「……そろそろ、挿れますね」  優駿は指を引き抜き、必要最低限だけ衣服を寛げると、取り出した屹立をそこにあてがった。逃さないよう自重を乗せて宰の上にのし掛かり、それからぐっと腰を進めていく。 「っん、ぁ……いっ、――…!」 「狭、きっつ……」  痛みが強いのは、単純に準備が足りていないのと、そもそも宰の気持ちがついていけていないせいだろうか。  それでも構わず、優駿は先に馴染ませた液体の滑りに任せて、内壁を押し開いていく。

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