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♥4.想定外と予定外2(2)
「やだな、俺が下手みたいな反応しないでくださいよ……仕方ないでしょ、男なんて抱いたことないんだから」
萎えかけた宰の熱を片手間に擦り上げ、自分本位に煽りながら、ようやく辿り着いたばかりの最奥を急くように穿ち始める。
「て言うかっ……、後ろでヤったの、初めてだけど……っ悪くは、ないですねっ……」
(違う……)
優駿(あいつ)はこんなこと言わない。絶対言わない。
こいつは、――優駿じゃない。
身体とは裏腹に、妙に冷めた頭がそう告げていた。
「美鳥さんやっぱきれいだし……そんな美鳥さんをこうして見下ろすの、思ったより興奮する」
「も、やめ……」
今更怖いように血の気が引いて、声が上擦る。
「美鳥さんが、そんなに俺のこと好きだったなんて……気づかなくてほんとすみません」
引き剥がそうと腕を突っ張るが、すぐにまた手首を束ねられてシーツの上に縫い止められた。
「でも、そんな俺だから、好きになったんですよ、ねっ……!」
声も出ないほど、いっそう深いところを貫かれ、それを何度か繰り返した末、優駿はひきつったように腰を震わせた。
間もなく中に放たれたのがわかった。結局宰は達していなかったが、優駿の方はもうそんなことはどうでもいいようだった。
「その気持ちは嬉しいです……だけど」
優駿は一人勝手に余韻に浸るような表情で、口付けるように顔を寄せてくる。けれども、そこに甘いキスなどは続かず、宰はただからかうように口許を舐められただけだった。
「やっぱ俺、男はないです」
と、囁くように言う優駿の吐息が唇を掠めた。
「美鳥さんならもしかしてって思ったんですけどね。ぶっちゃけその辺の女よりきれいだし。……でも、やっぱ無理なもんは無理でした」
宰は僅かに目を瞠った。
「全部無かったことにしてくださいね。こんな気の迷い、もうたくさんですから」
その耳元で、〝優駿〟は笑った。
「――ね、美鳥〝先輩〟?」
* * *
「先輩……」
それが夢だったと気付くのに時間はかからなかった。なのに呟くと胸が強く締め付けられる。
ベッドの上でのろのろと身を起こし、宰は前髪を強く握り締めた。
「……何で今頃」
部屋の空気は冷たいのに、身体は汗ばんでスウェットが張り付いている。
夢の中の相手は、優駿の姿をした後輩だった。
大学生の頃、宰が働いていたバイト先に後から入ってきた、学校も学部も学科も同じ二つ下の後輩。
明るく人好きのする彼は宰にとても懐いてきて、宰はそんな彼のことをいつしか好きになっていた。
けれども、宰はその気持ちを伝えようと思ったことは一度もなかった。
それがある夜、バイト先のスタッフが集まっての忘年会があり、宰は彼が嬉しそうに注いでくれるワインを飲みすぎてしまったのだ。
何も知らない彼は酩酊した宰を独り暮らしの自宅まで送ってくれた。その時、悪い癖が出た。
伸ばした手を、すぐさま振り払ってくれたら良かったのに。そうすれば冗談で済ませられたかも知れないし、できなかったとしてもあそこまで傷が深くなることはなかっただろう。
と、いくら悔やんでも後の祭りで――。
(……どのみち自業自得だ)
ガンガンと疼く頭を緩く振って、宰は枕元に置いていた携帯を手に取った。
程なくして起床のアラームが鳴る。夢見の悪さを改めようにも、二度寝する時間はないようだった。
深呼吸するように深く息をつき、ベッドを降りた宰は、ふらつく足取りでキッチンに向かい、何もかも忘れたいように冷たい水を呷った。
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