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4.想定外と予定外2(4)
「君に関係ないよね」
柏尾が勝手に答えた言葉は、案外効き目があったようで、ややして男は俯き、吐き捨てるように笑った。
「そうですね。今更もう関係ないですよね」
そして宰を再度見て、
「――突然声かけてすみませんでした」
小さく頭を下げると、そのまま踵を返し、あとは振り返ることもなく来た道へと戻って行った。
思いの外あっさり引き下がった男に、宰は少しだけ罪悪感のようなものを覚えた。
振り返らないその背を茫洋と見送りながら、宰は無意識に「ごめんな」と呟いていた。
* * *
柏尾に支えられながら、見慣れたホテルのドアを潜る。
酔いはほとんど冷めてしまったはずが、未だ蒼白となった顔色は治らず、頭の中もどこかぼんやりとして、体にも上手く力が入らなかった。
ベッドに腰掛けるよう促され、いつになく素直にそれに従う。
上着を脱がされ、ネクタイを緩められると、張り詰めていた糸が切れたようにぽてんとシーツの上に倒れこんだ。
「ちょっと飲み直そうか」
冷蔵庫から取り出した二つの缶ビールを手に、柏尾が宰の傍へと戻ってくる。差し出されたその一方を宰が受け取ると、柏尾の方も早速プルタブを引き上げごくごくと数口嚥下した。
相変わらず柏尾は何も聞いてこなかった。
後輩と別れ、この部屋に入るまで、話したことと言えば店のことやせいぜい優駿に関することくらいで、
「お前今週末休みだったよね。二連休?」
「え……、あ、はい」
たった一言、「あいつ誰?」と問われることもなく、そうなると逆に不自然に思えるほど、柏尾の態度はきわめて普段通りだった。
もちろん、今までだって、柏尾が宰の過去にさほど興味のある素振りを見せたことはない。宰も柏尾の身の上については、どうやらバツイチらしいということくらいしか知らない。
だからこそ続いている関係とも言えるのに、それが今夜に限ってはどうにも腑に落ちなくて、宰は柏尾にぽつりと尋ねた。
「……何で、何も聞かないんですか」
「聞いてほしいなら聞くけど」
言いよどむ宰に反して、柏尾はまるでその言葉を予測していたみたいに、ビールを呷る合間にさらりと答える。
けれども、そう言われると話せなくなるのが宰だった。宰は思わず顔を背けると、そのまましばし黙り込んだ。
「……ほんと嫌な人ですね」
それでも結局、何か言わずにいられないのは酒の余韻のせいだろうか。憮然としながらも上体を起こし、ビールを開けて、それを半ば自棄になったように飲み干した宰は、
「――一つだけ言わせてください」
と、更に一呼吸置いてから言った。
「彼は、単なる大学の後輩です。本当にそれだけですから」
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