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4.想定外と予定外2(7)

 宰は音と声のした方を見た。  窓ガラス越しに、そのガラスに両手をついて、立っていたのは優駿だった。 「なっ……」  互いに驚きは隠せない。それでも目が合うなり優駿は淡く頬を染め、心底嬉しそうに微笑んだ。反して宰は笑えなかったが、その余りに幸せそうな笑顔に、不覚にも目端が熱を持つ。 (なんで、俺まで……)  気のせいでなく顔が熱い。頬が赤くなっているのが見なくてもわかる。  それが自分でも信じられなくて、宰は何も応えずにハンバーガーに向き直った。  宰が顔を背けると、優駿は店の入口へと急いだ。そしてレジカウンターを素通りし、足早に宰の元へとやってくる。そんな姿を、視界の端で見るともなく見ていた宰は、 「こんなところで、美鳥さんに会えるなんて夢みたいです」 「……夢みたいとかいらねぇんだよ」  努めて平静を装いながら、誤魔化すようにコーヒーを飲んだ。 「ここ、座ってもいいですか?」  幸い、優駿は何も気づいていないようだった。あくまでも普段通りににこにこと、宰の隣を示してはそわそわとしている。 「お好きにどうぞ。こっちはもう行きますので」  何となく居た堪れない気分になり、宰は開きかけていた包みを閉じようとした。 「え、だってこれから食べるとこだったんですよね? それともどこか体調でも悪いんですか?」 (体調……)  その言葉に、数日前の柏尾との会話を思い出す。  触れるべきだろうか。それともこのまま知らなかったことにするべきか? 『あの時は大変だったらしいな。ちゃんと話を聞いてやれなくてすまなかった』  触れるにしたって、せいぜいそれくらいのことしか言えないが――。 (……いや、無理だ)  今更話題に出す方がずっと気まずい。  迷った末、宰は無言でハンバーガーにかじりついた。 「良かった」  宰が食べ始めたのを見て、優駿はほっとしたように柔らかく笑った。 「髪、切ったんですね。素敵です。似合ってます」 (……まぁ、いつもと同じだからな) 「服も! 私服姿も新鮮です!」 (新鮮って……今日の格好、シャツが黒になっただけで普段とそんな変わんねぇんだけど)  いいとも悪いとも言ってないのに、優駿は許されたように宰の隣の席に座った。 「あの、実は午前中、お店に行ったら今日明日お休みだって言われて……月曜まで会えないの寂しいなあって思ってたとこだったんです」 (月曜までって、たった二日じゃねぇか……) 「――て言うか、美鳥さんって、何してても綺麗ですよね」 (そんなこと言うのはお前くらいだよ)  話しながらとは言え、結局優駿は何の注文もしないまま、ただ一時でも離れるのが惜しいみたいに宰だけを見詰めている。  そんな風に食事している姿を凝視されると、さすがに宰も意識してしまい、 「あ、ソースついてる」  いつの間にかそう指摘されてしまうくらいには、動揺が隠せなくなっていた。  優駿は「ここです」と手を伸ばし、外見に見合った長い指で宰の口許を拭った。 「よ、けいなこと……」  遅れてはっとした宰は、らしくない自分に気恥ずかしさを覚えながらも、せめて何か言わなければと優駿の顔を見た。けれども、その刹那、待っていたように視線がかち合うと、再び言葉に詰まってしまう。  どこまでも真っ直ぐで、淀みのない澄んだ双眸が宰を見据えていた。見慣れているはずのその眼差しに、どくんと大きく鼓動が跳ねたのがわかった。

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