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6.優駿と宰(2)
就業時間を終え、帰り支度を済ませた宰は、従業員用の通用口から外に出た。天気は相変わらずの雨模様で、思わず陰鬱げに眉を顰める。
建物の一階部分にあたる駐車場が直接雨に濡れることはなかったが、所々にはすでに流れ込んできた雨水による水溜まりが出来ていた。
それを避けるようにして歩きながら、自身の車がとめてある駐車場の一角へと向かう。そこにあったシルバーの軽自動車は、先日親戚から譲り受けたばかりのものだった。
運転席に乗り込んだ宰は、エンジンをかける傍ら、助手席へと持っていたカバンを投げ置いた。その仕草が普段より乱雑なのは、昨日からの苛立ちが未だに消えないせいだ。
昨日だけでなく、今日も優駿は姿を見せなかった。
予報が当たり、一日を通して激しい雷雨が続いていたから、「さすがにこの天気じゃね」と薫も言っていたが、それでもなお優駿なら来るだろうと宰は心のどこかで思っていたのだ。
それなのに優駿は来なかった。
(必ず行きますってのは何だったんだよ)
我ながら矛盾しているとは思う。あんなに来るな来るなと言いながら、実際にそうされると裏切られたような気分になっている。連絡先は教えないのに、黙ってすっぽかされると腑に落ちない。
また何かあったのだろうかといちいち気にしてしまうのも嫌だった。
――優駿と自分がどうにかなることはない。優駿と自分には先がない。その考えは変わらないのに、どこかでそう割り切ることができていないのかもしれない。
「――やっぱ年下 は無理だ」
ややして、宰はぽつりと呟いた。
結局、それくらい優駿に振り回されているということなのだろう。だからこんな風に自分を見失ってしまうのだ。奔放な子供にいちいち付き合っていたら、身が持たないのは分かっていたはずなのに。
(せめて自分で引いた線は守らねぇと――)
宰は一旦瞑目すると、改めて駐車場の出口へと車を発進させた。
「……まだ結構降ってるな」
屋根がない場所に出るなり、忙しなくワイパーを動かす必要があった。そんな天候のせいか、案外車の往来は少ない。これなら家に着くのも早そうだ。そう思いながら表通りへと曲がった時、
「!」
宰は店舗を挟んだ向かい側の歩道に、ぽつんと佇む人影を見つけた。
長身の男だった。男は簡素なビニール傘を片手に、ぼんやりと店の方を見つめて立っていた。
「あいつ……」
目を凝らしながら、無意識にこぼした。
それは紛れも無く優駿だった。
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