40 / 93

6.優駿と宰(6)

 さすがに言い過ぎただろうか。言い方も少し乱暴だったかもしれない。  仮にも相手は六つも年下の世間知らずだと、知らなかったわけでもないのに。  落ちた沈黙が今更気まずくなってくる。これではもう寝るどころかキスのひとつもできない気がする。 「……じゃ、じゃあ、やっぱり……」  だが意外にも優駿はすぐに顔を上げた。  驚いた宰は黙ってその先を待った。 「お店の……チーフさん」 「……チーフ?」  問い返すと、優駿は小さく頷いた。 「チーフさんと、美鳥さんが……このホテルに一緒に入っていくの、俺……見ちゃって」  優駿は躊躇いがちに目を泳がせる。それでもどうにか言葉を紡ぎ、結局また居た堪れない風に視線を伏せた。 「あの人が、美鳥さんのことを『宰』って呼ぶの、やっぱり気になってて……、それもあって、一昨日の夜、二人を街で見かけた時……どうしても我慢できなくて、後を……」  優駿が言葉を切ると、部屋を再び静寂が包み込んだ。 (そう言うことか……)  宰もすぐには何も言わなかった。  何も言わずに頭の中で、その意味だけを反芻した。  要するに、優駿が昨日今日と店に顔を出さなかったのは、それが原因だったわけだ。悪天候の中、わざわざ外で宰を待っていたのも、〝何となく〟などではなくて――。  壁へとついていた手を退いて、自分よりも上背のある優駿を見上げる。優駿は依然として俯いたままだった。 「本当は、入院した時――お見舞いにきてくださった日も、お店に行ったんです。結局着いた時にはお店閉まってて、何にもならなかったんですけど」  ぎゅっと固く目を閉じて、どこか申し訳なさそうに、 「……ただその帰り道、俺が乗ってたタクシーと美鳥さんの車がすれ違って……、それでもその時はまだ、助手席にチーフさんが乗っててもそこまで考えなかったんですけどっ……」  微かに声を震わせながら、謝るみたいに頭を下げられる。  宰より背が高く、宰より肩幅も広い。そんな立派な体つきをしている優駿が、何だか酷く小さく見えた。 (意外と女々しいとこもあるんだな)  けれども、それがふと可愛くも思え、気がつけば片手で優駿の頭を撫でそうになっていた。 (な……にやってんだ、俺は)  寸前で我に返り、慌てて指先を握りこむ。幸い優駿は気付かなかったようで、目立った動きは見せなかった。そのことに大げさなくらい安堵して、宰は静かに手を下ろす。 「――それで?」  そして改めて問いかけた。 「そこまでってのは、どこまで考えた?」 「え……っ」 「俺がチーフと寝るとこでも想像したのか?」 「っ……」  優駿は否定できない。  それが妙に宰を高揚させた。  酒も飲んでいないのに、誘うように甘い声が出る。 「――それでお前も俺としたいと思った?」  優駿は一瞬身体を強張らせ、その後ゆっくり宰の顔を見た。

ともだちにシェアしよう!