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6.優駿と宰(7)
「したいと思ったなら、構わねぇよ。もともとその為にここに連れてきたんだし」
信じがたいように双眸を見開く優駿に、宰は顔を近づける。触れ合うぎりぎりまで唇を寄せると、優駿は更に身を硬くした。
(なんだよ、その顔……)
まるで初めてキスをする時みたいに、ぎこちなく息を詰める様が新鮮で、ますます心が浮き立ってしまう。
何て言うか――悪い気はしない。いや、寧ろ好ましい。
思いの外陶然とした心地になり、宰は無意識に唇を舐めた。すぐにでも口付けてしまいそうに顔を傾け、一際煽るように艶かしい手つきで優駿の頬を撫でる。
(そう……そのままじっとしてろよ。そうすれば俺はこれ以上、お前に振り回されないし……お前だって現実に戻れる)
淡く継いだ息が肌を掠める。宰は食むように唇を浮かせた。
「ま、待ってくださいっ」
しかし、その先を優駿は受け入れなかった。
今にも重なりそうな唇を引き結び、べったりと近まった宰の身体を、肩を掴んで押し返す。そうして有り得ないように首を振った。
「ちが、違う……俺、こんな」
何が起こったのか、理解に遅れた宰はただ目を瞠った。優駿は両腕を突っ張り、限界まで宰の身体を遠ざけた。指先が食い込み、肩に軋むような痛みが走った。
「違うって、何が……」
宰は呆然と優駿を見詰めた。反して優駿は宰を見ない。ともすれば見たくないように顔を背けて、ひたすら「ごめんなさい」と繰り返すだけだ。
(ああ……)
刹那、宰は思い出した。
(そもそもこいつはストレートじゃないか)
次にはそれを咀嚼して、自嘲を孕んだ笑みを浮かべた。
(――ここに来て、やっぱ無理でしたってヤツだ)
思い至ると、宰は優駿の手を振り解き、撥ね付けるように背を向けた。
「み、美鳥さ……」
背後から、縋るように名を呼ばれる。それに被せるよう冷たく吐き捨てる。
「その程度で口説くんじゃねぇよ」
頭の中が混乱していた。
空回りしているのは優駿とばかり思っていたのに、結果として相手が引くほど迫ってしまうなんて、自分の方がよほど空回りしている。
(なんでこうなるんだよ……)
頬も耳も全て熱い。恥ずかしくて堪らない。遣る瀬無くて涙が出そうだ。
「だからガキは嫌いなんだよっ……」
今にも消え入りそうな声を、どうにか形にして告げる。それすら酷く惨めに思えて視界が滲んだ。
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