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7.好きなら回れ右をしろ(7)

(……は――…)  依然として、携帯コーナーが近づくにつれ足取りは重くなる。  優駿が来ていた頃もそうだったが、来なくなったら来なくなったで、今日こそ来ているのではないかと気になってしまう。  実際来られても困るのに――困るだけなのに、どこかで待っているような気持ちも拭えないから余計始末に負えない。  いい加減にしろと自分でも心底呆れながら、そのたび「仕事中だ」と強く自分に言い聞かせる。  そんなことを気にする暇があるなら、一つでも多くのキャンペーン案でも考えろと、そうして何とか意識を切り替えていた。 「あれ、何で篠原が……急用か?」  やがて持ち場が望める通路に差し掛かり、宰は目を瞬いた。  角度的に首から上しか見えないが、ディスプレイ棚の向こうに立っているのは篠原に違いない。  篠原は死角となったカウンターに目を向けたまま、複雑そうな表情で首を捻っていた。カウンター内にいる薫と何か話しているのだろうか。 「あ、美鳥」  不思議に思って歩調を速めると、その気配に気づいたのか、篠原がこちらを振り返った。目が合うなりほっとしたような顔をされて、宰はますます困惑する。 (何なんだ……?)  宰は棚を回りこみ、カウンター前へと急ぐ。しかし予想に反して薫は接客中で、篠原の傍にはいなかった。 「――…って、え……?」  刹那、宰の心臓がどくんと跳ねた。 「エスカレーターから落ちかけたとかで、他の客に呼ばれたんだ。まぁ俺も知らない相手じゃないし……同じマンションのよしみってわけじゃないけどさ」  そう言って篠原が目を向けた席には、ぐったりと突っ伏して眠る一人の青年の姿があった。 「こ…………」  宰は思わず絶句する。 「そう、小泉君」 「な……」 「なんでかまでは解からないなぁ。ただ、眠ってるだけなのは間違いなさそうだけど」  途切れた言葉の先を、篠原がさらりと口にする。そこに接客を終えた薫が戻ってきた。その口元には微かな笑みが滲んでいる。 「あら、お帰りなさい、美鳥君」  言われても、すぐには反応できない。薫は篠原に目を向けると、「ここはもう任せてもらって大丈夫よ」と声をかけた。 「ど……どう言うことですか」  持ち場へと戻って行く篠原の背中を視界の端で見送って、宰は目の前で泥のように眠る優駿と薫の顔を交互に見遣った。先にカウンター内に戻った薫は、一層可笑しげに笑みを深めた。 「どう言うことって……会いに来たんでしょ、美鳥君に」

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