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♥7.好きなら回れ右をしろ(12)

「……なんでお前一人が寝るのにこのサイズなんだよ」  そこはやはり優駿の寝室だった。すぐ後ろに立った優駿が、気恥ずかしそうに「すみません」と謝罪する。 「まぁ別に謝る必要はねぇけど……。ベッドに関しては寧ろシングルじゃなくて良かったと思うし。シングルじゃさすがに狭そうだしな」  どこか独り言のように言って、宰はそのまま部屋に踏み入る。中央に置かれたキングサイズのベッド脇まで真っ直ぐ進むと、次には慣れた手つきで襟元のネクタイを一気に緩めた。 「えっ……み、美鳥さん……?」  唐突に暗がりに響いた衣擦れの音は、優駿をますます動揺させたらしい。上擦りかけたその声に、宰はふっと笑みを浮かべた。 「いいから来いよ。前にお前も言ってただろ。――俺に触れたくて、迷ったって」  傍らに立っていた間接照明のスイッチを勝手に入れる。柔らかく灯った明かりの中で、宰がゆっくりと振り返る。  顔を真っ赤に紅潮させて、立ち尽くすばかりの優駿の双眸を見詰め、 「……触れてみろよ」  誘うように溢しながら、じわじわと追い詰めるように間合いを削る。  けれども、そうして伸ばした手は優駿の背後の扉を閉めただけだった。  触れそうで触れないその距離に、優駿はずっと息を詰めていた。見開かれた瞳はまっすぐ宰を捕らえているのに、その身体は、腕は、唇は、未だ凍り付いたように動かない。 (手のかかるヤツ……)  言葉とは裏腹に、気分は高揚していた。宰は一つ息をつき、そっと顔を近づけた。結局先に触れたのは宰の方だった。  少しだけ背伸びするようにして、触れるだけのキスをする。過日のように拒まれなかったことにほっとして、改めて引き寄せられるように唇を押し当てた。 「ん……、…ふ……っ」  包み込むように頬に触れ、角度を変える合間に吐息を逃す。耳と言わず、首まで赤くした優駿の歯列を割って、舌先を滑り込ませる。  唇を食むようにしながら上顎を擽り、掠めた優駿の舌を絡め取る。唾液ごと啜るようにして弱く強く吸い上げると、優駿の伏せられた睫毛が小さく震えた。  優駿の葛藤が手に取るように分かる。拒むことも、受け入れることも出来ずに躊躇している様が酷くかわいい。そのくせ素直に目を閉じているのがまた堪らない。  様子を窺うため、時折薄く目を開けていた宰に対し、優駿は完全に瞑目し、もはやされるがままだった。気持ちだけが追い付いていないのかもしれない。 「……口、開けよ」  唇がぎりぎり触れる距離で囁くと、ようやく優駿は許されたように応え始めた。遠慮がちながらも腕を伸ばし、宰の身体を抱き締める。  そうなってからは性急だった。 「ん、…んんっ……」  宰が舌先を引き上げれば、逃がさないとばかりに追い縋られる。口腔内に差し入ってきた舌が、さっきまでの宰のやり方を真似るみたいにして上顎をこすり、歯列を辿る。  後頭部を押さえ込まれ、飲み込みきれない唾液が溜まる舌裏を掻き乱される。宰の動きに応じて側面を巧みに擦り合わされると、そこから広がる甘い痺れに危うく腰が砕けそうになった。 (なんだよ、意外に巧い……)  仮に童貞だったとして、驚かないつもりだった。しかし、そんな宰の認識はどうやら間違っていたらしい。 「は、…っ……」  優駿は名残惜しいように口付けを解くと、急くようにベッドの上へと宰を押し倒した。

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