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♥7.好きなら回れ右をしろ(13)
「…っ……」
すぐさま首筋に顔を埋め、片手間にシャツのボタンを外していくその手際も、思ったよりずっと慣れているように感じられる。
(なんか腹立つ……そんな遊んでそうには見えねぇのに)
合わせを開くようにしながら、あらわになった素肌に手のひらが触れてくる。脇腹から胸元へと、感触を味わうように這い上る指先が、ほどなくして胸の突起を探り当てる。かと思うと不意に先端を摘み上げられ、宰の肩がぴくりと跳ねる。
「ふ、っ……!」
辛うじて声はこらえたものの、その反応はかえって優駿を煽ったようで――。優駿はいっそう取り憑かれたように、首筋から鎖骨、胸元へと唇を寄せ、どちらかと言えば色白の宰の肌に、いくつもの淡い痕を残した。
その唇が、やがてもう一方の突起をとらえる。ちゅ、と音を立てて吸い付かれると、ふたたび身体が小さく撓る。
「ぁあ……っ、んんっ……」
まだろくに触れられてもいないのに、すでにぷっくりと立ち上がっていたその先を、舌腹がざらりと撫でつける。熱い口内で何度も転がされ、押し潰されて、いっそう触れて欲しそうに色を増すそれに、優駿は絶妙な力加減で歯を立てる。そうしながら、指で触れていた側も爪先で挟み、不意をつくように双方を引っ張るのだ。
「ぃ――ぁあ…っ! あ、んっ待っ……」
自分でも恥ずかしくなるほど艶めいた嬌声が口をついた。背筋へと伝わる甘やかな疼痛が、宰の胸を差し出すみたいに浮き上がらせた。
「美鳥さん……かわいすぎ、ですっ……」
(なにが、かわいい、だっ……)
やっと喋ったと思うも束の間、優駿は急くように下肢へと手を伸ばす。反射的に制しようとその腕を掴むが、力はほとんど入らない。
そうしているうちにも、もどかしいようにベルトを緩められ、前たてを寛げられる。終には早急に下着ごと衣服を引き抜かれ、宰は思わず顔を背けた。
「……っ」
痛いくらいに張り詰めていた自身が外気に曝される。はしたなく滲んでいた先走りが根元へと濡れた線を描く。
「……あんま、見んなよ」
掠れた声で言うと、呼応するように優駿はごくりと喉を鳴らした。喉仏が艶かしく上下して、唇から熱い吐息が零れ落ちる。相乗して煽られ、宰も無意識に息を詰めた。
「美鳥さん……」
優駿の手が下腹部へと直に触れる。たどたどしい手つきで宰の熱を撫で上げ、その形を確かめるように指先が動く。あえて焦らされているかのようなその所作に、うわ言めいた吐息が漏れる。
「ふ……、っぁ……」
心許ない浮遊感の中で、やんわりと握り込まれる。その手がゆっくりと上下して、時々思い出したかのように、長い指が先端を掠めた。止め処なく溢れる雫が、そこに淫猥な音を付加させていく。
「んっ、――ぁ、も、はな……っ」
気がつくと勝手に腰が揺れていた。特にこれと行って促されたわけでもないのに、あっという間に射精感が込み上げてくる。
「っや、ぁ、…――っ!」
頭を振っても、だめだった。次の瞬間、宰は堪えきれずびくびくと身体を震わせていた。
(……嘘、だろ)
優駿の手を濡らし、腹部に飛び散った白濁が肌の上を伝い落ちていく。
いつもならこんな簡単に達したりしないのに――。残滓を絞り出すようにされながら、それでもすぐには信じられなかった。
「良かった、美鳥さんが感じてくれて」
認めたくなくても、事実は覆らない。それどころか、目の前で優駿がべとべとになった指を舐めようとしているのを見て、よりこれは現実だと思い知らされた。
「お、前っ、なにやってっ……」
宰は慌てて優駿の手を掴んだ。すると優駿は心底不思議そうに瞬いて、
「何って……美鳥さんの――」
「は? いや、そういうこと言ってんじゃねぇよっ」
問えば馬鹿正直に答えようとするその様に、むしろ宰の方が恥ずかしくなった。
知らずじわりと赤く染まった目端に、優駿が啄むようなキスを落とす。
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