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番外編1『ある秋の日のこと。』(3)
「俺、クッキー好きなんです」
優駿は懇願するように言った。
一瞬妙な間ができる。のち、宰の肩からがくっと力が抜けた。
(理由それかよ)
何だか拍子抜けしたような気分になった。けれども、そんな自分には気付かないふりをして、努めて平然と息をつく。
「まぁそのうちな。気が向いたら」
「えええっ、美鳥さんのそのうちって、ほぼ実現しないってことじゃないんですか!」
優駿はテーブルに両手をつき、焦ったように腰を浮かせた。
反して宰は再びカップを口元に寄せ、悠然とそれを傾ける。そして既に冷めかけたコーヒーをひと口嚥下し、さらりと答えた。
「そうだな」
「そんなっ……」
愕然としたようにぺたりと座り込んだ優駿に、宰は密やかに笑いを堪える。そのいちいち素直すぎる反応は何度見ても可愛いと思う。
かと言って、それを表には出さないし、もちろん言葉にすることもないが、
「そんなに食べたいなら、当日お前の分貰ってきてやるよ。作るのは確か……瀬川と佐々木、だっけ? まぁ、どっちにしても料理できるヤツが焼くから、味は確かだろ」
「ち、違いますよ! 俺、美鳥さんが作ったお菓子が食べたくて!」
(……それなら初めからそう言えよ)
そこまで言うなら、多少甘やかすくらいはしてやってもいいか――という気にはなってくる。
……まぁ、実際には優駿にねだられた時点で、ある程度そのつもりになってはいたのだが。
宰はそっと身を乗り出して、俯きがちの優駿の耳元で囁いた。
「そんなに言うなら、作ってやってもいいけど……その代わり、当日は絶対店に来んなよ」
喉奥で微かに笑い、そのまま唇に掠め取るようなキスをする。優駿は弾かれたように顔を上げた。
「……っ美鳥、さ……っ」
「まぁでもとりあえずは……、昨夜(きのう)できなかったことをするのが先か」
宰がそう呟いたのと、堪えきれず優駿が手を伸ばしたのは同時だった。
END(番外編2に続きます)
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