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番外編3『ある春の日のこと。』(4)

「そりゃコイくんが卒業したら……普通に考えて家に呼びもどされるだろうし、そうなったら色々面倒だろうとは思うけど」 「面倒っていうか……そもそも周りが許すはずないですよ。そうなったら、アイツ自身の立場も悪くなるだろうし……」  ちびちびとグラスを傾ける宰を一瞥し、柏尾は次の煙草に火をつける。それをひと口吸ってから、 「まぁ、あの子はそういうの気にしなさそうだけどな」  まるであたり前みたいに言うその口調に、宰は思わず声を荒げた。 「だから俺が考えてんだろっ……」  勢いに任せてカクテルの残りを一気に飲み干し、振り下ろすようにしてグラスを天板に戻す。瞬間、ぐらりと傾いた身体を、分かっていたように支えたのは柏尾の腕だった。  視界の端で、柏尾はただ銜え煙草の先から細い紫煙を燻らせていた。そのあくまでも動じない様子に、余計やるせなさが募る。 「……もういいです」  宰は柏尾の腕を払うようにしてスツールに座り直すと、そのままずるずると天板につっぷした。目を閉じれば、待っていたかのように眠気が下りてくる。添えるだけになっていた柏尾の手が、ぽんぽんとあやすように背中を叩いた。 「そういうことは、お前一人が考えても意味ないと思うけどね。そもそもそんな一年後のことなんて、誰と付き合ってたってどうなるかわかんないし。――それこそ、コイくんのことだから、お前がそうやって独りぐるぐるしてるうちに、親族の前でいきなり宣言しちゃったりして。この人が俺の大事な人です、とかって」 「冗談はやめてください」 「じゃあ……この際ちょっと離れてみるとか」 「それができたら苦労しません……」  即答しながらも、夢現の中、「まぁ、今更職場も家も隠せないか」といつも通りに笑ってくれたことには、少しだけ感謝した。

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