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短編2『柏尾の独白』(2)
「……チーフって案外お節介なんですね。それとも店の体面のためですか」
減らず口をたたいてはいるが、その目は未だうつろで覇気がない。美鳥は緩慢に瞬くと、不意に薄笑いを浮かべた。
「今まで見て見ぬふりしてたんだから、これからもそうしてれば良かったのに」
「え……お前気付いてたの?」
「つい最近ですけど。他の客に聞いたら、随分前からの常連だって言ってましたよ」
抑揚のない声で言いながら、ベッドサイドに腰掛けた俺を一瞥し、ふたたびぼんやり宙を見詰める。
俺は小さく肩を竦め、苦笑混じりに頷いた。
「……まぁ、俺も最初はそのつもりだったんだけどな。たまたま気が向いたんだよ。結構遅い時間だったし」
変なのにひっかかりそうになっていたから――とは何となく言う気になれず、当たり障りのない言い訳を口にする。傍ら、ポケットから煙草を取り出し、揺すって浮かせた一本を口にくわえると、その穂先に百円ライターを構えた。
「それこそ余計なお世話ですよ。別に俺は相手なんてどうでも良かったのに」
「どうでもいいって……」
けれども、その言葉には思わず手を止めてしまう。結果火を点けないまま、俺は一旦くわえていた煙草を手に取った。
「ていうか、お前、いつもそんななの? 酒が入ると人肌恋しくなるとか……そういうこと?」
「うるさいな。アンタだって似たようなもんでしょ。独りで飲みたくないから“常連”なんじゃないんですか」
「……まぁ、そこは否定はしないけど」
そう言われると違うとも言えず、それ以上の言葉は出てこない。諦めて煙草を唇に戻すと、今度こそ火を点けようとライターを握る。なのにそれをまた美鳥が止めた。
「それなら――…」
と、美鳥はゆっくり身体を起こし、ペットボトルの水を一口飲んだ。それから俺を横目に見遣り、かと思えばそっと口元に手を伸ばしてきて――。
「それなら、話は早いじゃないですか」
言うが早いか、くわえていた煙草は抜き取られ、美鳥は少しだけ見上げるような眼差しでじっと俺を見詰めていた。
「あなたがストレートだって言い張るなら、諦めますけど」
俺は一瞬唖然としたものの、
「――まいったな」
程なくして唇を吐息が掠めると、結局その先を拒むことは出来なかった。
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